日々のこと

2011年6月アーカイブ

110223_ny_0463c.jpg


ディーヴは空をみあげると、

指をさして、にっこり笑った。

「Blue sky!」

わたしをみて、またにっこり笑った。

110223_ny_0476b.jpg


トンプキンス広場にはロンがいた。

ロンは詩人で、十字架の首飾りをつけていた。

ロンも白いシャツを着ている。

ロンは無口で笑わない。

ロンは、きみのスケッチブックには色がないといって、

胸のポケットから一本の緑のボールペンを私にくれた。

今はもうそのボールペンもなくしてしまったけれど。

ロンは一編の詩をくれた。

白い紙にワープロの文字がきれいに並んでいた。

あるときロンがまたひとつ、詩をくれた。

ノートの切れ端に青いペンで書いてある。

『FLASH BACKS』というタイトル。

でも訳すことができなくて、ふたつの詩はずっと持っている。

110223_ny_0466b.jpg


「ニューヨーク.トンプキンス広場の想ひで」


トンプキンス広場が晴れた日は、人がいっぱいだった。

トンプキンス広場はイーストヴィレッジのはずれ、

アルファベット・シティにある。

緑の樹と、緑のベンチと、

小さな水飲み場のほかにはなんにもない。

可愛いチューリップの花も、

きれいなバラの花も咲いていない。

ブランコも滑り台も噴水もない。

でも鳩や犬がいて、毎日のろのろ時間が流れていた。

いくつも並んだベンチは干からびた鳩の糞が

ぺちゃっと白くこびりついていたけれど、

誰でもすわったり寝そべったりできて、

私はベンチが好きだった。

ベンチが緑色なのも、好きだった。

トンプキンス広場で彼らに会ったのは、

7月の、暑い、暑い、とろけてしまいそうな夏の初めだった。


1989年のこと。

もう遠い日の想い出となってしまったけど、

いまもときどき彼らのことをおもいだす。

2007年5月、平安画廊で念願の個展。

15年もかかってしまった。

木版画にしようと思い版木に木炭で下絵を画いていたが、

いつのまにか、「版画」から「板画」に。

2023年5月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

アーカイブ